職場で繰り返し怒鳴られる。障害をからかわれる。相談しても取り合ってもらえない――。そんな状況が続くと、「自分の受け止め方が悪いのかもしれない」と迷うことがあります。
私も過去に職場で嫌がらせを受け、退職した経験があります。ただ、被害に遭った人が必ずすぐに辞めなければならないわけではありません。まずは身の安全と体調を守り、起きたことを整理したうえで、相談先や今後の働き方を選んでください。
職場での障害者虐待には5つの種類がある
障害者虐待防止法では、事業主や上司など「使用者」による障害者虐待を、次の5種類に分けています。
- 身体的虐待:殴る、蹴る、正当な理由なく閉じ込めるなど。
- 性的虐待:わいせつな行為をする、またはさせること。
- 心理的虐待:著しい暴言、拒絶的な対応、不当な差別的言動などによって深く傷つけること。
- 放棄・放置:職場のほかの従業員による虐待を使用者が放置することなど。
- 経済的虐待:賃金を支払わないなど、不当に財産上の利益を得ること。
同僚からのいじめが、すべて直ちに法律上の「使用者による障害者虐待」と決まるわけではありません。一方で、会社が被害を知りながら放置している場合もあります。どの種類に当たるか自分で判断しきれなくても、相談して構いません。また、この法律の対象は障害者手帳を持っている人に限られません。障害者虐待防止法の概要
厚生労働省が公表した令和7年度の集計では、使用者による虐待が認められた障害者は610人でした。種類別では経済的虐待が521人と最多です。ただし、これは通報・届出を受けて虐待が認められた事案の集計であり、職場で起きた被害の総数を示すものではありません。令和7年度の公表結果
被害に遭ったとき、まず何をする?
危険な場所から離れ、体調を優先する
暴力や性的な被害を受けている、身の危険を感じる場合は、その場から離れてください。差し迫った危険があれば警察に連絡し、けがや体調の悪化があれば医療機関を受診してください。
出勤を続けることで心身が限界に近づいているなら、休暇や休職も含めて考えてよい状況です。「会社への相談を済ませてからでないと休めない」と思う必要はありません。
起きたことを記録する
落ち着いてから、覚えている範囲で次のことを残します。
- いつ、どこで、誰から、何をされたか
- その場にいた人や、相談した相手
- 体調や仕事への影響
- メール、チャット、勤務記録、給与明細など、関係する資料
一度で完璧な記録を作る必要はありません。後から思い出したことを足しても大丈夫です。会社に相談した際も、伝えた内容と返答を残しておくと、その後の相談に役立ちます。
どこへ相談すればよい?
社内に信頼できる窓口がある場合は、人事担当者やハラスメント相談窓口などに、起きた事実と希望する対応を伝えます。「加害者と離してほしい」「事実を調べてほしい」など、求めることを具体的にしておくと話しやすくなります。
社内に相談しにくい場合や、相談しても改善しない場合は、事業所のある市町村の障害者虐待防止センター、または都道府県の障害者権利擁護センターに連絡できます。虐待を受けた本人からの届出も受け付けています。厚生労働省の案内
いじめ・ハラスメントなど、職場全般の問題について相談先に迷うときは、労働局などに設けられた総合労働相談コーナーも利用できます。賃金の未払いなど労働基準に関わる問題は、労働基準監督署にも相談できます。
相談の時点で、「これは虐待だ」と証明できている必要はありません。分かっている事実と、困っていることを伝えるところから始められます。なお、障害者虐待について通報・届出をしたことを理由に、労働者を解雇するなどの不利益な扱いをすることは禁止されています。厚生労働省の説明
退職するかどうかは、自分の安全と生活を基準に決める
相談や配置転換によって働き続けられる場合もあれば、職場を離れることが必要な場合もあります。いじめや虐待を受けた側が、職場に残って解決する責任まで負う必要はありません。
一方、退職後の収入に不安があるなら、退職を決める前に、休暇・休職の可否や雇用保険について確認しておくと安心です。いじめやハラスメントを受けて退職した場合でも、離職理由が自動的に「会社都合」になるわけではありません。離職票に書かれた理由が実態と異なるときは、記録を持ってハローワークに事情を伝えてください。離職理由は、本人と会社双方の説明や資料を踏まえてハローワークが判断します。雇用保険の基本手当について
職場でのいじめや虐待は、被害を受けた人が「もっと上手に振る舞えば防げた」と考えるべき問題ではありません。危険なときは離れる。記録を残す。信頼できる場所に相談する。そのうえで、働き続けるか離れるかを選んでください。
