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障害当事者であり、採用担当でもあるむじなです。
平成30年8月22日、厚生労働省から「平成29年度使用者による障害者虐待の状況等」が公表されました。
結果としては、通報・届出件数、虐待が認められた件数ともに前年度より増加。
虐待が認められた障害者数は、1,308人と前年度比34.6%増となりました。
私もイチ働く障害者として、「職場の障害者いじめ・虐待」は無視することのできない問題です。
実際、低俗な嫌がらせを受けた過去もあります(すぐに辞めてやりましたが)。
その当時から数年が経ちましたが、個人的な感覚としては、「障害者が働きやすい理解ある会社」と「障害者を軽く扱う悪辣な会社」の二極化が進んでいるように感じます。
今回は、厚生労働省の発表資料を中心に「職場の障害者いじめ・虐待」の傾向を把握するとともに、実際にいじめ・虐待を受けたらどのように対処すれば良いのかを解説していきたいと思います。
職場の障害者いじめ・虐待にはどのようなものがあるのか
「このくらいで虐待だなんて通報するのは……」と我慢しながら働いている方も、きっといらっしゃると思います。
どのような行為が虐待にあたるのか、正しい知識を身に着けておかないと、自分の身を守ることはできません。
まずは障害者のいじめ・虐待について、どのようなものがあるのか、「実際に虐待と認定された実例」を元に確認していきましょう。
身体的虐待
殴る蹴るなどの暴行、物理的な虐待です。
外傷が残らない暴行(髪を掴み上げる・頭を押さえつける)や「部屋に閉じ込める」などの身体拘束も身体的虐待にあたります。
身体的虐待の実例(1)
障害種別:身体障害
就労形態:期間契約社員
事業所の規模:5~29人
業種:金融業、保険業
障害者本人からの届出。
上司によって職場内の倉庫に閉じ込められることが複数回あった。1度であれば誤って鍵を閉めた可能性も考えられるが、1人で倉庫にいるときにのみ、これまで複数回閉じ込められた。
※「実例」は実際に虐待と認定されたものを、「平成29年度使用者による障害者虐待の状況等」より引用。以下同様。
身体的虐待の実例(2)
障害種別:知的障害
就労形態:期間契約社員
事業所の規模:500人~999人
業種:生活関連サービス業、娯楽業
障害者本人からの届出。
上司は、作業に時間がかかったり、一度教えてもらったことを覚えきれずに作業が遅れると、暴言や殴る、蹴るなどの暴力をふるうことがあり、恐怖を感じている。
性的虐待
体を触る、わいせつな言葉を発する、性的な関係を強要する性的虐待。
性的虐待というと「被害者が女性、加害者が男性」という思い込みがありますが(実際数は多いですが)、逆もありますし、同性同士というケースもあり得ます。
性的虐待の実例
障害種別:発達障害
就労形態:パート等
事業所の規模:5人~29人
業種:医療、福祉
障害者本人からの届出。
障害者は、上司から抱きつかれるなど体を触られることや、お尻を叩かれるなどの性的虐待を受けた。
心理的虐待
- 「早く辞めろ!」「障害者は何をやってもダメだな!」などの罵倒・暴言・差別的発言(言葉による暴力)
- 無視・仲間外れ
- 「明らかに達成不可能な仕事」をやらせて、達成できないことを叱りつける・恥をかかせる
上記のように、精神的苦痛を与えるのが心理的虐待です。
心理的虐待の実例
障害種別:知的障害
就労形態:正社員
事業所の規模:100人~499人
業種:サービス業
市役所から県庁を経由して労働局に報告された事案。
事業主が障害者に対し、仕事を適切に行っているにもかかわらず、「何をやってるんだ!」「早くしろ!」と怒鳴るなど、度々威圧的な態度をとる。
放置等による虐待
「放置等による虐待」というと、会社で起こりそうな虐待ではないという印象ですが、厚生労働省・都道府県労働局の資料によると、使用者による虐待としては、
「住み込みで食事を提供することになっているにもかかわらず食事を与えない、仕事を与えない、意図的に無視する、放置することで健康・安全への配慮を怠るなど」が該当する。
仕事を与えない=存在を無視するというのも、障害者虐待にあたるということです。
また、障害者虐待を発見した者には通報義務が課されているため、「虐待を知りながら放置した」というのも、この「放置等による虐待」にあたります。見て見ぬ振りも虐待です。
経済的虐待
使用者による虐待のうち最も多いのがこの「経済的虐待」です。全体の83.5%を占めています。
「契約通りの賃金を支払わない」「時給が最低賃金未満」「残業代を支払わない」などのお金に関する虐待が該当します。
「お金に関する虐待」は記録として証拠が残りやすく、また労働基準監督署も目を光らせているため「虐待として発覚する⇒虐待と認定される」ケースが非常に多くなっています。
証拠はしっかり手元に残しておきましょう。各種通報窓口は後程記載します。
経済的虐待の実例
障害種別:精神障害
就労形態:期間契約社員
事業所の規模:30人~99人
業種:卸売業、小売業
障害者本人からの届出。
採用の際、「健常者なら時間給900円だが、障害者だから800円だ」と言われ同意してしまった。しかし、納得できないと考え、使用者に賃金額の見直しを申し出たが、改善してもらえなかった。
障害者がいじめ・虐待を受けないために
私も障害当事者としてこんなことを書くのは気分が悪い限りですが、なぜ職場の上司や先輩、同僚(健常者)があなた(障害者)をいじめるか・虐待するかというと、
「障害者のくせに生意気に俺の意見に逆らうな・俺のやり方に口を出すな」
という障害者を下に見る意識があるからです。表には出さなくても、無意識にでも、こう思っている人はどこにでもいます。
私の経験上、障害者が新しい職場で働くときは、まずは「言われたこと」は文句を言う隙が無いくらい「言われた通り」にやりましょう。
たとえあなたが「こうした方が良い・早い」と思っても、まずは言われた通りに。でないと「言われたこともできないのか」と悪感情を抱かれます。
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障害者がいじめ・虐待を受けたら
- 一部の人(特定の上司や同僚)からいじめ・虐待を受けた場合
社内の「障害者相談窓口」「ハラスメント相談員」などの社内窓口に相談してみましょう。なければ、あなたを採用してくれた採用(人事)担当者でも構いません。
きちんとした会社なら、いじめ・虐待をした社員にはしかるべき処分が下ります。今のご時世コンプライアンスに厳しいので、身内だからと甘く見ません。
「障害者への差別的言動」でマネージャークラスが処分されたという話も、障害者採用に携わっていると、割と聞く話です。
- 職場ぐるみのいじめ・虐待を受けた場合 or 職場に信頼できる人がいないと思う場合
都道府県労働局(厚生労働省HP)、または労働基準監督署(厚生労働省HP)、またはハローワークの障害者担当者(厚生労働省HP)に相談・通報しましょう。
社内に信じられる人間がいない場合は、下手に(社内の)誰かに相談すると、いじめ・虐待が悪化する恐れがあります。しかるべき機関に相談しましょう。
そして、そんな誰も信頼できる人がいない会社からは、転職しましょう。心配しなくても、正しい方法さえ知っていれば、そして正しい方法で努力すれば、障害者の転職活動はそんなに難しいものじゃありません。
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- いじめ・虐待がどうしようもなく辛い・我慢できない場合
あなたの健康・命より大事なものはありません。できるだけ早く辞めてしまいましょう。
障害者の雇用保険は優遇されている(支給期間が長い)ので、失業しても挽回のチャンスはあります。
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また、「自己都合退職」なら失業保険をもらえるまで3か月の待期期間が必要ですが、いじめ・虐待を受けて退職したということなら「会社都合退職」と認定してもらえる可能性があります。
会社都合退職なら、離職後すぐに失業保険を受給することができます。まずはハローワークの障害者窓口(厚生労働省HP)で相談してみましょう。