障害者雇用・転職

障害者が仕事で配慮を求めるのは甘え?当事者・人事の経験から考える

「障害への配慮をお願いすると、甘えていると思われないだろうか」

私は聴覚障害と発達障害の当事者として働き、企業で人事労務や障害者採用にも携わってきました。その中で、必要な相談であっても、能力や仕事への姿勢を低く評価されることが怖くて、言い出せなかった経験があります。

配慮を求めたというだけで、その人の努力や仕事への姿勢は判断できません。何に支障があり、どのような調整が必要なのかを、具体的に考えることが大切です。

この記事では、私自身が相談をためらった経験と、人事側で関わった調整例から、仕事で配慮を求めることについて考えます。

聞こえにくさへの配慮と、仕事の進め方の相談には違う不安があった

私にとって、電話応対や情報保障の相談と、業務量・仕事の進め方の相談には、明確な違いがありました。

電話や口頭での情報のやり取りには、物理的に聞こえにくいという事情があります。通院についても、自分の希望だけでなく、通院先の診療日時などの事情が関係します。

こうした事情と比べ、業務量や仕事の進め方の相談では、別の不安がありました。

「能力が足りないと思われないか」
「要領が悪い人だと評価されないか」

仕事の進め方について相談することが、自分の能力や評価に直結するように感じたのです。実際、私は業務量や仕事の進め方について、相談をためらい、依頼しませんでした。

これは、相談した結果断られた経験ではありません。どう受け止められるかが不安で、相談するところまで進めなかった経験です。

他の社員への評価を聞いたことも、不安につながった

私自身が、直接「甘えだ」と言われた経験はありません。

ただ、発達障害のある社員について、能力不足や要領の悪さと結び付けるような評価を、社内で耳にしたことは複数回あります。その経験も、自分が相談することへの不安につながりました。

その社員の仕事上の状況や、会社とのやり取りをすべて把握していたわけではありません。個々の評価が妥当だったかどうかを、ここで判断することはできません。

それでも、周囲が困りごとをどう受け止めているかは、自分が相談できるかどうかにも影響しました。

私が働いた特例子会社では、障害のある社員が配慮を受けながら働くことが、職場の当たり前になっていました。私にとっては、その環境自体が、配慮を受けることへの引け目を感じにくくする要素でした。

この経験については、特例子会社で働いたメリット・デメリットの記事でも紹介しています。

相談窓口や面談制度を用意することに加え、日頃の言葉や接し方にも、相談しやすさを左右するものがあると感じています。

合理的配慮は、仕事で生じている支障を改善するためのもの

職場での合理的配慮は、障害によって生じている仕事上の支障を改善し、能力を発揮できるようにするための調整です。

障害者雇用促進法では、事業主に合理的配慮の提供が義務付けられています。厚生労働省「雇用分野における障害者への差別禁止・合理的配慮」

たとえば、通常のキーボードを操作することが難しいなら、使える機器や入力方法を検討する。口頭の連絡を聞き取れないなら、文章でも情報を共有する。こうした調整には、仕事を進めるうえでの意味があります。

仕事に必要な道具や伝達方法の相談を、本人のやる気だけの問題として片付けるべきではないと、私は考えています。

ただし、希望した方法がすべてそのまま実施されるわけではありません。本人と会社が話し合い、必要性や会社への負担を踏まえて、実施できる方法を検討します。希望した方法が過重な負担になる場合も、別の方法を話し合うことが求められています。厚生労働省「合理的配慮指針」

また、業務量や仕事の進め方の相談が、すべて障害に関する合理的配慮に当たるとは限りません。障害との関係に加え、担当している仕事の量や、指示・役割分担の状況も整理して考える必要があります。

「甘えかどうか」という言葉だけでは、その区別も、必要な対応も分かりません。

「別の人ができる」ことは、その人に配慮が不要な理由にはならない

同じ障害があっても、難しいことや負担の大きさは人によって異なります。仕事内容や、職場で使える道具、情報の伝わり方によっても状況は変わります。

厚生労働省の合理的配慮指針も、配慮には個別性があり、本人の状態と職場の状況に応じて検討するものとしています。厚生労働省「合理的配慮指針」

「自分はできた」「別の社員はできている」という経験は、対応方法を考える参考にはなるでしょう。しかし、それだけで目の前の人にも同じやり方を求められるとは限りません。

一度できたことと、同じ負担で継続して働けることにも違いがあります。その人がどの場面で困り、どのような条件なら仕事を進められるのかを確認することが必要です。

人事側で関わった、仕事の進め方を整える調整例

人事・採用側として関わった中では、仕事の進め方を調整することにも効果を感じました。

特に、発達障害のある社員への対応で、費用や手間に対して効果が大きいと感じたのは、次のような調整です。

指示する人と、相談する人を明確にする

誰から指示を受けるのか、困ったときには誰に相談するのかを決める調整です。

仕事そのものの説明に加えて、指示や相談の経路を明確にします。「分からなければ誰かに聞いて」という状態から、確認する相手が分かる状態にすることです。

相談先を決める際には、担当者が不在のときの対応も含め、職場で運用できる形を考えられます。

マニュアルや指示に、イラスト・写真を加える

手順を文章だけで説明するのではなく、イラストや写真を加え、作業の流れを分かりやすくする調整です。

私が関わった事例では、こうした連絡経路の明確化や説明の視覚化が、有効な調整になりました。

もちろん、発達障害がある人全員に同じ方法が合うわけではありません。本人が何に困っているかを確認し、その仕事に合う方法を検討することが前提です。

仕事の進め方を相談することには、このように、指示や手順を整える余地もあります。本人の能力について結論を出す前に、仕事の渡し方や情報の伝え方を確認する意味はあると考えています。

周囲の負担も含めて、会社が調整方法を考える

配慮によって業務分担が変わる場合は、周囲の社員への影響も考える必要があります。

たとえば、電話応対を別の人が担当するなら、その人の業務量や、チーム全体の担当範囲も確認することになります。

本人が必要な配慮を求めることと、同僚に負担が集中しないようにすることは、両方とも検討すべきことです。そのためには、上司や人事を含め、職場全体で業務の割り振りや実施方法を考える必要があります。

周囲から不満が出た場合も、配慮を受ける本人の姿勢だけの問題と決めつけず、役割分担や説明が十分だったかを確認できます。

本人には、何に困っているかを伝える役割があります。一方、会社には、その内容を受け止め、実施できる方法を検討する役割があります。

配慮を求めるのが怖いときは、困っている場面から整理する

私自身、評価への不安から相談できなかったことがあるため、「遠慮せずに言えばいい」と簡単には言えません。

相談を考える際には、まず、次のような点を整理する方法があります。

  • どの業務・場面で困っているか
  • 仕事や体調に、どのような影響があるか
  • どのような変更を相談したいか

自分だけで具体的な対応方法を思いつかない場合も、支障になっている事情を伝え、会社と方法を考えることができます。厚生労働省「合理的配慮指針」

ただし、説明を工夫すれば、どの職場でも不安なく相談できるとは限りません。相談しづらい雰囲気がある場合には、直属の上司以外の担当者や、社外の支援機関を頼る方法もあります。

具体的な伝え方、配慮が実施されない場合の相談先、働き続けるか迷ったときの確認事項は、職場で障害への配慮がないときの対処方法で紹介しています。

必要な配慮を求めたというだけで、その人を「甘えている」と評価してしまえば、仕事上の支障や、調整できる部分を見落としかねません。本人と会社が具体的な状況を確認し、働ける方法を考えられることが、相談の土台になると私は考えています。

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