障害者雇用・転職

障害者雇用が定着しないときに見直したいこと|待遇・職場環境・合理的配慮

障害当事者で、企業の人事労務・障害者採用にも関わってきたむじなです。

「採用に力を入れているのに、長く働いてもらえない」「入社後の支援を、どこから見直せばよいか分からない」。障害者雇用に取り組む企業では、こうした悩みもあると思います。

私は、採用活動とあわせて、すでに働いている社員の待遇や職場環境を見直すことが大切だと考えています。本人が困っていることを確かめ、必要な配慮を実際の仕事に反映する。その積み重ねが、安心して力を発揮できる職場につながるのではないでしょうか。

この記事では、採用担当として考えた費用の使い方と、障害当事者としての経験から、職場で見直したい点を紹介します。

採用費用と、入社後の働きやすさをあわせて考える

2018年、私が障害者採用を担当していた企業では、民間の合同面接会への出展や、転職エージェントを通じた採用を行っていました。

当時の勤務先について、私が概算した費用は次のとおりです。

項目 当時の概算
合同面接会への出展 約50万円×年10回=約500万円
人材紹介を通じた採用 約100万円×年3人=約300万円
説明会・面接などに直接関わる人件費 約100万円
上記の合計 約900万円

人件費は実際の支出を集計した金額ではなく、担当者の対応時間などから試算したものです。また、この合計には、求人媒体費や、企画・調整・準備にかかった時間まで含めていません。

こうして費用を考えたとき、私は、採用活動に向けている予算や労力と同じように、入社後の働きやすさにも目を向ける必要があると感じました。

たとえば、会議の情報を受け取るための機器、業務手順の整備、相談できる担当者の配置、待遇の見直しなどです。採用計画を立てる際に、こうした改善に必要な費用や時間も一緒に検討できます。

職場改善によって、どの程度定着が進むかは、この試算では分かりません。ただ、働き続けるうえでの困りごとが残っているなら、その改善にも取り組む価値があると思います。

障害名だけで判断せず、困っている場面を確かめる

同じ障害名でも、仕事で困る場面や、必要な配慮は一人ひとり異なります。

私は聴覚障害がありますが、まったく聞こえないわけではありません。静かな環境では、口の動きなども頼りに会話ができるため、障害があると気づかれないこともありました。

一方で、その様子から「いつも聞こえている」と思われ、聞き取れなかった場面を「聞こえないふり」と受け取られたこともあります。

私の経験から感じるのは、ある場面でできていることを、その人がどの場面でもできることだと考えないでほしい、ということです。

精神障害や発達障害についても、診断名だけで仕事内容や配慮を決めるのではなく、本人が実際に困っている場面を確認することが大切です。たとえば、複数の指示が重なると作業を進めにくいのか、急な予定変更に負担を感じるのかによって、調整する内容は変わります。

雇用の分野では、障害者雇用促進法に基づき、事業主に合理的配慮の提供が義務付けられています。職場で能力を発揮する妨げとなっている事情について、本人と話し合い、過重な負担とならない範囲で必要な措置を検討します。詳しくは、厚生労働省「雇用分野における障害者への差別禁止・合理的配慮」をご覧ください。

職場で見直したい5つのこと

1.困りごとを相談できる相手と機会を用意する

「何かあれば相談してください」と伝えるだけでは、誰に、どの程度のことを話してよいか分からない場合があります。

普段の業務について相談する相手を明確にし、必要に応じて人事担当者や産業保健スタッフにも相談できるようにしておくと、困りごとを伝える手がかりになります。

面談では、体調だけでなく、仕事の量、指示の受け取り方、人間関係、現在の配慮が役立っているかも確認したいところです。本人が話しやすい方法や頻度を相談し、業務や配属が変わったときにも見直します。

厚生労働省の合理的配慮指針でも、障害の状態や職場の状況の変化を踏まえ、必要に応じて定期的に支障の有無を確認することが示されています。

2.指示・手順・優先順位を分かりやすくする

仕事の進め方で困っている場合は、本人の努力に期待するだけでなく、指示や手順を見直すこともできます。

たとえば、次のような方法が考えられます。

  • 口頭の指示に、文章や図による説明を添える。
  • 作業手順をマニュアルにまとめる。
  • 複数の仕事を頼むときは、優先順位と期限を伝える。
  • 質問する相手を決めておく。
  • 予定や担当業務の変更を、分かる範囲で事前に知らせる。

これらは、全員に同じ方法を当てはめるためのものではありません。本人が理解しやすく、仕事を進めやすい方法を一緒に確かめていくための例です。

3.勤務時間・休憩・設備を仕事内容に合わせて調整する

通院への対応、休憩の取り方、勤務時間、作業場所、情報を受け取るための機器なども、見直しの対象になります。

たとえば、通院と仕事を両立しやすい勤務予定を相談する、落ち着いて休める場所を確保する、会議で文字による情報共有を取り入れるといった方法です。業務の性質や本人の希望によっては、在宅勤務や勤務時間の調整も検討できます。

制度や機器を導入した後は、実際に利用できているか、困りごとが減っているかも確認したいところです。制度があっても、申請方法が分からなかったり、使いにくい雰囲気があったりすれば、十分には役立ちません。

4.待遇と、今後の仕事の見通しを確認する

安心して働くための配慮とあわせて、給与、評価、昇給、仕事内容についても目を向ける必要があります。

本人が何を重視しているかは、それぞれ異なります。現在の仕事を安定して続けたい人もいれば、仕事の幅を広げたい人、収入を上げたい人もいます。

面談では、次のような点も確認できます。

  • 仕事内容や負担に対して、待遇をどう感じているか。
  • 評価基準や、昇給・賞与への反映方法を理解できているか。
  • 今後取り組んでみたい仕事があるか。
  • 研修や業務の拡大、異動などの機会があるか。

配慮を受けながら働くことと、仕事や待遇について希望を持つことは両立します。会社側が想定する働き方と、本人が望む働き方をすり合わせる機会が必要だと思います。

私が特例子会社で経験した相談のしやすさと、仕事内容・給与について感じたことは、特例子会社で働くメリット・デメリットにまとめています。

5.一緒に働く人にも、必要な対応を共有する

人事担当者が配慮事項を把握していても、実際に仕事を頼む上司や同僚に伝わっていなければ、日々の業務で行き違いが起こり得ます。

本人と相談し、誰に、何を、どのように共有するかを決めておきたいところです。診断名を知らせるだけでなく、「指示は文章でも残す」「急な変更は担当者から説明する」など、仕事で必要な対応を具体的に共有します。

障害理解の研修も、職場での行動につながる内容にしたいと思います。「できないことがある」という説明だけで終わらせず、どのような方法なら仕事を進められるか、周囲はどう関わればよいかまで考える機会にできます。

障害への配慮から、職場全体の働きやすさを考える

私は特例子会社で働いたとき、さまざまな障害のある人と一緒に仕事をする機会を持ちました。

そこで感じたのは、同じ「障害者」という言葉でまとめられていても、それぞれに得意なこと、苦手なことがあるということです。障害のある社員が必要な配慮を受けながら働いている環境は、私にとって障害のことを相談しやすい場所でもありました。

この経験から、障害についての知識を得ることとあわせて、一人ひとりを知り、仕事を通じて関わる機会も大切だと考えています。

また、障害への対応をきっかけに整えた仕組みが、ほかの社員にも役立つことがあります。

たとえば、分かりやすい業務手順、相談相手の明確化、通院しやすい勤務調整、落ち着いて休める場所などです。職場全体で利用できる部分を広げれば、障害の有無にかかわらず、仕事を進めやすくなる可能性があります。

そのうえで、一人ひとりに必要な配慮は、個別に確保します。共通の制度と個別の調整を組み合わせて、働きやすい環境を考えていきたいところです。

まずは、今働いている社員の困りごとから始める

職場改善を進めるなら、最初から大きな制度を作ろうとするより、現在働いている社員の困りごとを確かめるところから始められます。

  1. 本人が困っている場面と、希望する対応を聞く。
  2. 本人と現場の担当者で、実施できる方法を相談する。
  3. 誰が対応するかを決め、仕事に反映する。
  4. 実施後に本人の感想や現場の状況を確認し、必要に応じて調整する。

社内だけでは方法を決めにくい場合は、外部の支援機関にも相談できます。地域障害者職業センターによる事業主支援では、障害者雇用に関する相談などを行っています。また、ジョブコーチによる支援では、本人への支援に加え、事業主や職場の従業員への助言、仕事内容や職場環境の改善提案も行っています。

採用計画を考えるときには、入社後の仕事、相談体制、必要な配慮、待遇まで一緒に検討する。私は、すでに働いている社員の声を聞き、その人が力を発揮できる条件を整えていくことが、障害者雇用を進めるうえで大切だと考えています。

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