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障害当事者であり、採用担当でもあるむじなです。
障害者採用の求人を探していれば一度は目にする特例子会社。
「障害者が働きやすいって聞くけど、本当?」「そもそも普通の会社とどう違うの?」
今回はそんな疑問にお応えし、特例子会社での就労経験があり、かつ10社以上の特例子会社を訪ねて実態を聞いてきた私が、特例子会社で働くメリット・デメリットをお伝えしていきます。
そもそも特例子会社とは
特例子会社とは、親会社(およびグループ会社)の障害者雇用率アップのために、障害者雇用に特化して設立された子会社のことです。
特例子会社は2016年6月1日現在で448社あり、18,950人の障害者が働いています(2018年6月1日時点で486社、23,488人)。
まずは特例子会社制度が作られた背景から。
障害者雇用促進法により、企業には一定割合以上の障害者雇用が義務付けられています。
民間企業の法定雇用率は、2017年8月現在で2.0%であり、順次2018年4月に2.2%、2020年度末までに2.3%に引き上げられる計画が立てられています。
しかし、法律で決まれば雇用が進むというものではありません。障害者雇用が義務化されたのは1976年のことですが、未だ障害者雇用が進まない企業も依然として多いのが現状です(2016年時点で、法定雇用率達成企業は 48.8%)。
そこで法制化されたのが「特例子会社」です。特例子会社で雇用している障害者は「親会社およびグループ会社」の雇用としてカウントするという「特例」があります(なので、特例子会社と呼ばれます)。
企業が特例子会社を設立するメリットは、主に下記の点が挙げられます。
- 法定雇用率未達成の企業に課される「障害者雇用納付金」の削減
- 障害者雇用のための施設・設備(トイレ・エレベーター・段差解消など)等の集中による効率化・経費削減
- 賃金・労働時間・業務内容・採用基準など、親会社と異なる設定が可能(親会社内での制度調整が不要)
- 障害者雇用によるイメージアップ
特例子会社に就職するメリット
それでは、障害者から見た、特例子会社で働くメリットとは何でしょうか。
会社の施設・設備や人的サポートが整っている
特例子会社は、様々な障害者が集まって働くことを想定して設立されているため、施設・設備の面、人的サポートの面、ともに充実した体制が取られています。具体的には、
- 社屋外から事務室内に至るまで段差を解消している
- 扉のロック解除を(視覚・聴覚障害者のために)音や光で知らせる
- 車いす対応トイレや、褥瘡(じょくそう=床ずれ)予防のベッドがある
- ジョブコーチや手話通訳士が常駐している
等々、ハード面・ソフト面ともに障害者にとって働きやすい環境が整えられているため、一般企業よりも就労のハードルはかなり低いでしょう。
また、「視覚障害者が聴覚障害者のために、会議でパソコンテイクをとる(文字起こしする)」「聴覚障害者が視覚障害者を誘導する」など、相互に(自然と)助け合うような良い関係性が育まれるのも、大きなメリットだと私は感じました。
親会社から障害者雇用に適した業務が切り出されている
特例子会社での主な業務は、親会社やグループ会社が障害者のために切り出した定型的業務です。障害者が取組みやすい仕事があると考えておけばOKです。
具体的には、データ入力や資料管理、印刷、郵便の仕分け、備品の管理など、身体的・精神的に負荷が軽い簡単な事務作業が多いです。かつ、障害があっても業務に支障が無いよう工程も工夫されています。
もちろん、農業や物販、障害理解研修など様々な業務に取り組んでいる特例子会社もありますが、いずれも障害特性をみて配置を行うのが基本です。
通院のための休暇や短時間勤務、在宅勤務など、制度が整っている
通院のために有給休暇が取得できたり(年次有給休暇とは別に)、短時間勤務や在宅勤務制度が整っているなど、一般企業よりも柔軟な働き方が可能です。
一般企業でも短時間勤務や在宅勤務ができるところはありますが、契約社員やパート社員での雇用が多いです。特例子会社は、「正社員として働く」「障害に応じた時間・場所で働く」を両立しやすいのが特徴ですね。
特例子会社に就職するデメリット
もちろん、全ての面で特例子会社が一般企業より優れている訳ではありません。特例子会社で働くことによるデメリットも当然存在します。
給料が安い
一般企業に比べて圧倒的に給料は安いです。
そして、昇格しても一般企業のように大きく昇給することはありません。私が特例子会社に勤めていた頃の上司(50代・視覚障害)は人間的にも能力的にも大変優れた方でしたが、当時20代前半の私と大して変わらない給料で働いていました。
特例子会社は、他の特例子会社と非常に綿密に情報交換しています(親会社がライバル企業同士でも行き来してたりします)。
特に、特例子会社での私の仕事は”障害者の職域開拓”であったため、他の特例子会社に勤める方と話す機会がたくさんありました。
多くの特例子会社の内情を教えてもらいましたが、給料の面では、どこも私が在籍していた特例子会社と大差ありませんでした。
専門的なスキルが身につかない、業務が物足りない
特例子会社の主な業務は定型的な事務業務であり、特別なスキルは必要ないことがほとんどです。裏を返せば、誰でも出来るような仕事が多いのです。
特例子会社で長く務めたとしても、社外で通用するようなスキルが得られる機会は少ないし、デキル人にとっては物足りない業務が多いのが事実です。
特例子会社は、「社会人として仕事でチャレンジしていきたいんだ」という方には向かないでしょう。
まとめ 特例子会社と一般企業、就職するのはどちらが良いか
私は特例子会社で働いた後、一般企業に(障害者枠で)転職しました。「もっと出来るし、もっと給料が欲しい」と思ったからです。
もっともそれは、私が比較的軽度な(口話が可能な程度の)聴覚障害者であったためでもあると思います。
- 「一般企業」では質・量ともに多くの業務を求められるが、その分給料は高く、上昇していく傾向がある。反面、障害に対する配慮が行き届かないことが多い。
- 「特例子会社」では、施設・設備・制度・業務内容など障害に対する配慮が行き届いている。反面、頑張っても見合うほどの給料は望めない。
特例子会社で働くか、一般企業で働くか。障害種別や程度によってベストな選択は人それぞれですし、時が経てば重視するものが変わることもあるかと思います。
大事なことは、思考停止して「周りから勧められた会社でいいや」「このままでいいや」と安易に考えることなく、自分の進みたい道に進んでいくことです。
働き方に迷われている方は、転職エージェントを使って自分の可能性を見つけてみるのがおすすめです。
転職エージェントについてまとめた記事はこちら。
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