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障害当事者であり、採用担当でもあるむじなです。
障害者の就職・転職市場についてはこれまでいくつか記事を書いてきましたが、今回は新卒障害者の話。
(参考:障害者の雇用環境について徹底解説【就職・転職は今がチャンス】)
法定障害者雇用率(企業に義務付けられた障害者の雇用率)の上昇、人手不足、(今働いている)障害者の高齢化などの要因によって、「働ける障害者」が様々な企業から求められているのは、上記の記事で書いた通りです。
なかでも、企業が喉から手が出るほど欲しがっているのが、「新卒障害者」です。
しかし、なぜこんなにも新卒障害者が求められているのか、その当事者たちも良く分かっていないのではないでしょうか。
検索してみても目ぼしい情報は見つからなかったので、今回解説したいと思います。
就職活動を控えている新卒障害者は、自分たちの置かれた状況をしっかり認識して、新卒カードを有効利用しましょう。
ある程度の学力を備えた障害者で、母集団(採用候補者)を形成できる
大学に在籍しているということは、曲がりなりにも何らかの選抜試験(学力試験)を通過してきたということです。
障害者採用枠は、学歴がなくても(高卒でも)大企業に入社するチャンスが大きい素敵な制度なわけですが、企業側からすれば、応募者の学歴が高い(高卒より大卒)に越したことはない。
しかも、新卒採用は候補者全員がほぼ同時期に応募してくるため、募集の手間も省けます。
※障害者枠は「学歴よりもよっぽど重視する項目」が多いので(応募者の障害を自社で受け入れられるか(配慮できるか)など)、学歴が低いからと言ってそんなに不利なわけでもありません。
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通勤や、職場環境に対応できる可能性が高い
応募時点(大学在学時)で障害者手帳を取得しているということは、通学や授業など、ある程度独力でこなしていると考えられます。
つまり入社後も、通勤や職場環境に(特別な対応をしなくても)対応できる可能性が高いということです。
同じ大卒でも中途採用となると、大学卒業後に障害を負っている(悪化している)場合もあり、障害による生活や就労への影響がどの程度なのかを測ることが難しい。
その点、大学に独力で通っている新卒障害者というのは、それだけである種のハードルをクリアしており、企業からすれば魅力的だということです。
障害の受容と、最低限のコミュニケーション能力(協調性)が期待できる
応募時点(大学在学時)で障害者手帳を取得しているということは、自分の障害と付き合いながら、健常者の中で集団生活の経験があるということです。
(筑波技術大学など例外もありますが)
障害者採用において、企業が一番重視しているポイントは、
「自分の障害について正しく理解し、対処する術を心得ているか」「健常者の中での立ち居振る舞い(協調性・コミュニケーション)を身に着けているか」です。
なので、大学という「健常者の集団」の中で障害者として過ごした新卒障害者は、その点クリアできている=入社後も他の社員(健常者)と上手くやっていけるだろうということです。
その他、採用業務や受け入れについての企業側のメリット
ここまでは、新卒障害者のどこに魅力があるのかという視点でしたが、その他にも「新卒募集として採用活動すること」自体にも、企業側にメリットがあります。
健常者の定期新卒採用と同時進行できる
これ、実際に採用担当を経験したことのない方はピンとこないかもしれませんが、採用活動ってめちゃめちゃ大変なんですよ。特に下準備が。
会社説明会をやって、合同イベントに出展して、面接会場を押さえて、面接官(役員・上司・他部署のマネージャーなど)のスケジュールを押さえて……。
なので、障害者の採用も、健常者の新卒採用と一緒にやっちゃった方が楽だよね!ということです。
もちろん、障害者の採用なので(会場やコミュニケーションなど)配慮が必要な点も多く、全部が全部、健常者と障害者を一緒くたにするわけではありません。
が、障害者の採用を別スケジュールでやるよりも、新卒採用活動と並行して実施する方がよっぽど楽です。
他の(健常者の)新入社員と同時に研修ができる
これも、上と同じく「一緒にやっちゃった方が手間かかんないよね!」という話でもありますが、もっと大切なのは、
- 新入社員研修で同期社員と交流し、相談し合える仲間ができれば、不安が軽減できる=職場への定着が期待できる。
- いきなり配属ではなく、新入社員研修という「準備期間」を取ることで、会社の文化・会社員としての生活リズムに慣れ、スムーズに職場に適応できる。
内定から入社まである程度の期間があるため、受け入れ態勢を十分に整えられる
中途採用と違って、新卒採用は内定から入社までの期間が長いです。
中途採用なら数日~長くて2か月程のところ、新卒採用であれば、半年くらいの期間があるケースが多いのではないでしょうか。
内定から入社までの期間が長ければ、それだけ配属先の部署で受入れ態勢を十分に整えることができます。
段差の解消などのバリアフリー化や、読み上げソフトの導入などのハード(設備・機器)面での準備はもちろん、
部署内のメンバーに、障害について正しく理解してもらい、配慮の仕方や指導方法などを身に着けてもらうソフト面(教育・意識付け)の準備に十分時間をかけることができます。
教育係として、適任の人材を置くことも可能でしょう。
こうなると、雇う企業にとっても、働く新卒障害者にとっても、入社後ずいぶん楽になります。
最後に
新卒障害者はなぜこんなに需要があるのか、こんなに優遇されるのか。今回の記事でお分かりいただけたでしょうか。
企業だけでなく、働く障害者にとっても、新卒枠で入社することは大きなメリットがあるんですね。
当然ながら、新卒カード(新卒の強み)を使えるのは、たった一度きり。これから就職活動を迎える大学生各位は、その威力の強さをしっかりと認識して、悔いの残らない就職活動をやっていきましょう。
なお、「まだ障害者手帳を取得していない場合、障害者として(手帳を取得して)就職活動をした方が良いか」という点については、また別の機会に記事にしたいと思います。