障害者雇用で転職先を探すとき、何を基準に会社を選べばよいのでしょうか。
年収が上がっても、仕事内容が合わなかったり、通勤で疲れ切ってしまったりすると、長く働くことは難しくなります。一方、配慮を受けやすい職場でも、仕事や収入に物足りなさを感じることはあります。
私は聴覚障害・発達障害の当事者として、一般企業と特例子会社の両方で働いてきました。障害者採用に携わった経験もあり、現在は一般企業の人事・労務部門で働いています。
その経験から、転職先を選ぶ際は「配慮・収入・仕事内容・通勤・会社規模」の五つを、今の職場と並べて考えることが大切だと感じています。
この記事では、それぞれの比較ポイントと、応募前や面接で確認しておきたいことを整理します。未経験の仕事を検討するときの、応募条件の見方にも触れます。
まず「譲れない条件」と「調整できる条件」を分ける
五つの項目を、すべて同じ重さで比較する必要はありません。まずは、次の三つに分けてみましょう。
- 働くために必要な条件:情報保障、通院への対応など
- 転職で改善したいこと:収入、仕事内容、通勤負担など
- ほかの条件次第で調整できること:出社頻度、担当業務の一部など
私の場合、仕事内容は譲れない条件です。そのうえで、転職によって優先して改善したいのは収入です。働くために必要な配慮を受けられることも前提になります。
人によっては、通院と両立できる勤務時間や、通勤の負担が最優先になることもあるでしょう。
配慮については、必要なことと、その実現方法を分けて考えるのも有効です。たとえば、口頭だけでは情報を受け取りにくい場合、チャットや資料、議事録など、職場に合った方法を相談できます。
五つの軸で、今の職場と応募先を比較する
求人を見る前に、今の職場の条件を書き出しておくと、転職によって何が改善し、何が変わるのかを判断しやすくなります。
| 比較する軸 | 今の職場で整理すること | 応募先で確認すること |
|---|---|---|
| 配慮 | 必要な対応、相談しやすさ | 対応できる内容、共有・相談の方法 |
| 収入 | 月給、賞与、手当、昇給 | 入社時の条件、評価・昇給の仕組み |
| 仕事内容 | 得意な業務、負担、今後の希望 | 日々の業務、担当範囲、応募条件 |
| 通勤 | 所要時間、疲労、出社頻度 | 経路、在宅勤務、勤務地の変更 |
| 会社規模 | 制度、仕事の選択肢、部署の体制 | 制度の利用条件、異動、仕事の分担 |
求人票に書かれていない項目は、いったん「未確認」としておきましょう。「大企業だから配慮も整っているはず」「在宅勤務ありなら毎週利用できるはず」と考えると、実際の条件との違いを見落としやすくなります。
1.配慮|必要な対応と、相談しやすさを確かめる
配慮は、制度の名称だけでなく、実際の仕事で困る場面と、対応があればできることを具体的に伝えて相談することが大切です。
たとえば、次のように確認すると、担当業務との関係を話し合いやすくなります。
電話での対応は難しいですが、メールやチャットであれば対応できます。今回の業務では、電話対応をどの程度担当しますか。
複数の依頼が重なったときは、優先順位を確認できると仕事を進めやすくなります。入社後は、どなたに相談できますか。
必要な機器やソフト、職場内の移動環境についても、自分に必要な対応が可能かを確認しましょう。対応方法が分からない場合は、まず困る場面を伝え、会社と一緒に考えることもできます。
合理的配慮の提供は、過重な負担となる場合を除いて事業主に求められるものです。具体的な対応は、本人の意向を尊重しながら、会社と話し合って検討します。厚生労働省「合理的配慮指針」
採用担当者に伝えた配慮事項が、本人の意向を踏まえて必要な範囲で現場に共有されるか、入社後に困ったときの相談先があるかも見ておきたいところです。
引け目を感じずに相談できるか
私が特例子会社で相談しやすいと感じた理由は、定期面談などの制度だけではありませんでした。大きかったのは、「障害があることが当たり前」の環境だったことです。
一般企業では、配慮をお願いするときに「甘えだと思われないか」「周囲から特別扱いだと思われないか」と不安になることがありました。
特例子会社では、多くの社員がそれぞれのハンディに応じた配慮を受けながら働いていたため、私自身は引け目を感じにくかったです。
私の経験では、相談しやすさは会社規模だけでは判断できませんでした。必要な対応について話し合えるか、相談を受け止めてもらえるかも確かめたいです。
2.収入|入社時の条件と、その先の見通しを比べる
収入は、求人票の年収だけでなく、毎月の給与と、働き続けた先の見通しを分けて確認しましょう。
- 基本給、賞与、各種手当の内訳
- 固定残業代の有無と、対象となる時間・金額
- 初年度の賞与や手当の支給条件
- 評価が昇給・賞与・昇格にどう反映されるか
- 担当業務や役割が広がった場合の待遇
私が特例子会社で働いていたときは、良い評価が賞与に反映されていました。一方、昇給はほとんどなく、長く働いた先の収入にも大きな改善を見込みにくいと感じていました。
そのため、入社時の年収だけでなく、どのような役割を担うと評価や待遇が変わるのかも、転職先を選ぶうえで重要だと考えています。
仕事の負担に対して、納得できる収入か
給与を比較するときは、仕事内容や責任、勤務時間、残業、通勤も一緒に考えたいところです。年収が上がっても、仕事や生活への負担が大きく増えるのであれば、自分にとって良い転職とは限りません。
応募先には、次のように確認できます。
この給与条件では、どのような業務と役割を担当することが想定されていますか。
障害があることへの遠慮だけで、希望する収入を低く設定する必要はありません。これまでの経験や担当できる仕事を整理したうえで、納得できる条件を探しましょう。
実際に紹介された求人の年収や確認ポイントは、障害者雇用で年収500万〜600万円の求人はある?でも紹介しています。
3.仕事内容|日々の業務と、自分の経験との接点を見る
初めて障害者雇用で仕事を探したとき、私は希望する仕事内容を十分に整理できていませんでした。「自分にできる仕事なら何でも」という気持ちが先にあり、これまでの経験を何に活かせるか、どんな仕事に取り組みたいかを具体的に考えられていなかったのです。
今振り返ると、応募先を探す前に、自分の経験や希望をもう少し整理する必要があったと感じています。
希望する仕事がまだはっきりしない場合は、次の三つから書き出してみましょう。
- これまで担当したことがある業務
- 得意だったこと、負担が大きかったこと
- 今後も続けたいこと、新しく取り組みたいこと
「事務職」「人事」「営業」といった職種名だけでは、実際の仕事は分かりません。同じ職種でも、会社や部署によって業務内容は大きく変わります。
求人や面接では、次の点を確認すると比較しやすくなります。
- 主な業務と、一日のなかで時間を使う仕事
- 自分で判断する範囲と、相談できる相手
- 急な依頼や、複数の業務が重なる頻度
- 社内外とのやり取りの方法
- 業務量や優先順位を調整できるか
取り組みたい業務や活かせる経験まで整理すると、応募先との相性を考えやすくなります。仕事のやりがいは、責任の大きさや難しさだけでなく、得意なことを活かせることや、無理なく続けられることにもあります。
未経験の職種も、応募条件と教育体制で判断する
以前、私が採用担当として関わった中途採用では、募集する部署が求める業務や経験を事前に整理し、それに合わせて選考を進めていました。応募先を見るときも、「何を任せたい求人なのか」を確認することが大切だと考えています。
一方、私自身は未経験の業種・職種へ転職した経験があります。その体験から、同じ仕事の経験がないことだけで、転職を諦める必要はないと感じています。
ただし、障害者採用でも、実務経験やスキルを応募条件にする募集はあります。たとえば、富士通の障がい者キャリア採用では、経験やスキルに合った求人への応募を案内しています。
「オープンポジション」は、職種や配属先の候補を幅広く検討する募集ですが、経験が問われないことや、希望する仕事を必ず担当できることを意味するわけではありません。
未経験の仕事や、担当業務が決まっていない求人を検討するときは、次の点を確認しましょう。
- 応募時点で必要な経験・スキルと、入社後に学べること
- 最初に担当する業務と、教えてもらえる体制
- 配属先や担当業務が決まる時期と、希望を伝える機会
職種が違っても、資料作成や顧客対応など、これまでの業務との接点を探すことはできます。職歴が少ない場合も、実際にできる作業や、学習・訓練で取り組んだことを整理して相談してみてください。
経験の伝え方は、障害者雇用の職務経歴書の書き方も参考にしてください。
入社後に仕事内容が変わる可能性も確認する
私が特例子会社で担当していたのは、障害に関連する行政の動向や、他企業の取り組みを調査し、親会社に報告する仕事でした。当事者の視点を活かせる業務でもありました。
その後、組織改編によって、同社の商品・サービスの営業を実際に担当することになりました。営業そのものが嫌だったというより、仕事への負担感と給与が見合わないという感覚が強まったことが、転職理由の一つになりました。
配慮を受けやすい職場であっても、仕事内容や待遇への希望がなくなるわけではありません。
応募先では、現在の担当業務に加えて、組織変更や異動によって仕事が変わる可能性、変更後に業務を相談・調整できるかも確認しておきたいです。
労働条件の明示事項には、業務内容や就業場所の「変更の範囲」も含まれます。求人票や募集要項の記載を読み、範囲が広くて分かりにくい場合は、想定される変更を確認しましょう。厚生労働省「労働条件の明示」
特例子会社での経験については、特例子会社で働くメリット・デメリットに詳しくまとめています。
4.通勤|所要時間と、出社頻度・疲れ方を比べる
通勤は、毎日積み重なる負担です。私は過去に往復約2時間の通勤をしていたこともあり、仕事だけでなく、移動も含めて無理なく続けられるかを考えるようになりました。
同じ所要時間でも、混雑や乗り換えによって疲れ方は変わります。比較するときは、次の点を見ておきましょう。
- 自宅から職場までの実際の所要時間
- 混雑、乗り換え、徒歩移動の負担
- 週に何日出社するのか
- 在宅勤務や時差出勤を利用できるか
- 通院や帰宅後の生活に支障がないか
可能であれば、実際の出勤時間帯に通勤経路を試してみると、所要時間だけでは分からない負担を確認できます。
「在宅勤務あり」の利用条件まで見る
在宅勤務がある求人では、制度の有無に加えて、利用条件を確認しましょう。入社直後から使えるのか、週に何日程度なのか、所属部署でも利用できるのかによって、通勤負担は変わります。
通勤時間が少し長くても、出社頻度によっては検討できる場合があります。時間だけで線を引くのではなく、働く一週間全体で考えると判断しやすくなります。
勤務地が変わる可能性や、その範囲も確認しておきたいところです。
5.会社規模|制度と仕事の選択肢を確かめる
会社規模は、それ自体を良し悪しの基準にするより、「その会社で、どのような選択肢があるか」を見る手がかりだと考えています。
私は、従業員1万人以上の組織から十数人規模の組織まで働いた経験があります。制度や、特に仕事の幅については、規模が大きい会社ほど選択肢が広がりやすいと感じています。
ただし、部署や職種が多いことと、自分が希望する仕事を担当できることは別です。次のような点まで確認すると、会社規模を具体的な条件として比較できます。
- 利用したい制度が、自分の雇用形態や所属部署でも使えるか
- 社内公募や異動の仕組みがあるか
- 障害者雇用で入社した社員が、どのような業務を担当しているか
- 経験や希望に応じて、担当範囲を広げられるか
- 休暇や欠勤の際に、仕事を分担できる体制があるか
会社全体の従業員数と、実際に働く部署の人数も分けて見ておきましょう。大きな会社でも、所属部署が少人数であれば、一人が担当する範囲は広くなるかもしれません。
また、親会社が大企業であっても、子会社の制度や待遇が同じとは限りません。応募する会社の条件を確認することが大切です。
条件がよく見える求人も、今の職場と比較して判断する
転職先を探していると、新しい求人の良いところに目が向きやすくなります。しかし、今の職場にも、仕事に慣れていること、上司に相談しやすいこと、必要な配慮が定着していることなど、転職によって失う可能性のある良さがあります。
応募先を検討するときは、次の三つを書き出してみましょう。
- 今より改善できそうなこと
- 今より負担が増えそうなこと
- まだ確認できていないこと
「収入は上がるが通勤が長くなる」「希望する仕事だが配慮の共有方法が未確認」と整理できれば、次に何を質問すればよいかが分かります。
雇用形態についても、名称だけで判断せず、契約更新の条件や正社員登用の実績を確認しましょう。契約社員から正社員登用を目指す際の確認事項も参考になります。
今の職場との相性だけで、自分の可能性を決めない
同じくらいの会社規模でも、仕事の進め方や職場の雰囲気、求められる役割は異なります。業務の割り振りや情報共有の方法も、働きやすさに影響します。
今の職場で仕事や人間関係がうまくいかないとき、一つの職場での評価だけで、自分の経験や強みまで否定する必要はありません。
今の職場で調整できることを相談しつつ、ほかの会社ではどのような仕事や働き方があるのかを調べると、自分に合う条件を考える材料になります。
まずは退職を決めずに、比較する材料を集める
在職中に求人を調べ、条件を比較したうえで、転職するかを判断することもできます。
私自身、初めて障害者として転職活動をしたときは、支援サービスへの不安もあり、相談に踏み出せず一人で活動していました。今振り返ると、経験や希望を整理する段階から、相談できる相手を持つことも大切だったと感じています。
エージェントを利用する場合は、希望を具体的に伝えると、求人を紹介する際の基準を共有しやすくなります。
これまでの経験を活かせる仕事内容を希望しています。働くために必要な配慮は○○です。年収は○○万円を目安にしていますが、担当業務や働き方も含めて検討したいと考えています。
未経験の仕事を希望する場合は、これまで担当した業務と、新しく取り組みたいことを分けて伝えてみましょう。まだ希望がまとまっていなければ、今の職場で困っていることから話してもよいと思います。
直接聞きにくい待遇や担当業務について、エージェントを通じて確認できる場合もあります。ハローワークや就労支援機関に相談する方法もあります。
サービスの違いを確認したい方は、障害者向け転職エージェントの比較もご覧ください。
年齢だけで、応募前に可能性を決めない
年齢が気になり、求人を調べる前から諦めてしまうこともあるかもしれません。私が過去に在籍していた会社では、50代の方が正社員として採用されたこともありました。
募集・採用の年齢制限は、定年を上限とする場合などの例外を除き、原則として禁止されています。ハローワーク「年齢制限該当事由について」
年齢だけで判断せず、仕事内容や必要な経験、自分が担当できる業務と照らし合わせてみましょう。応募を迷う場合は、エージェントやハローワークを通じて、具体的な応募条件を確認する方法もあります。
続けられる条件と、改善したいことを明確にする
転職先を選ぶ際は、配慮・収入・仕事内容・通勤・会社規模を、今の職場と並べて比べてみてください。そのうえで、働くために必要な条件と、転職で改善したいことを分けると、求人を選ぶ基準が明確になります。
未経験の仕事を検討する場合も、求人ごとの応募条件を確認し、活かせる経験と、入社後に学ぶ必要があることを整理するのが出発点になります。
比較した結果、今の職場に残ることや、担当業務・待遇について相談することが良い選択になる場合もあります。自分が無理なく続けられ、納得して働ける条件を明確にしてから、次の職場を選んでいきましょう。
