障害者雇用の面接では、自分の障害や必要な配慮について説明する機会があります。ただ、「自分には何が得意で、何が苦手なのか」「会社にどんな配慮を相談すればよいのか」と聞かれても、すぐには言葉にできないことがあります。
私は聴覚障害と発達障害(ASD・ADHD)の当事者で、障害者採用に携わった経験があります。それでも、自分のことになると、仕事で困る場面や必要な配慮を整理するのは簡単ではありませんでした。
2019年の転職活動では、dodaチャレンジの面接対策の面談や、発達障害のある人向けのセミナーに参加しました。仕事の経験を振り返り、具体的な場面に分けて考えることで、面接で伝えたい内容が整理できました。
この記事では、そのときの体験を交えながら、得意・苦手を見つけ、自分でできる対処と会社に相談したい配慮へつなげる手順を紹介します。主に就労経験のある人向けですが、学生時代の活動や実習、アルバイトなども振り返りの材料になります。
1.これまでの仕事を、具体的な作業に分けて振り返る
まずは、職務経歴書や過去の業務のメモを用意します。まだ職務経歴書を作っていなければ、担当してきた仕事を書き出すだけでも構いません。
「人事の仕事」「事務の仕事」と大きくまとめず、実際に行っていた作業まで分けてみてください。
例えば、採用業務であれば、次のような作業があります。
- 採用計画や募集要項を作る
- 転職エージェントと打ち合わせをする
- 面接の日程を調整する
- 応募者と面接をする
- 内定後の案内や入社手続きを進める
同じ担当業務の中にも、取り組みやすかった作業と、負担が大きかった作業があるはずです。
それぞれについて、「比較的うまく進められた」「困ることが多かった」「できたけれど、とても疲れた」といった印象を書き添えます。すべてを得意・苦手のどちらかに分類する必要はありません。
思い出しやすい出来事から、次の点をメモしてみましょう。
- どんな作業をしていたか
- 誰と、どのような方法でやり取りしていたか
- 何がうまくいった、または難しかったか
- そのときの負担や疲れ方はどうだったか
成果が出た仕事でも、強い負担を感じていたのであれば、その点も残します。「できること」と「無理なく続けられること」を分けて考えるためです。
2.得意・苦手に共通する「条件」を探す
いくつかの経験を書き出したら、共通点を探します。
仕事内容だけでなく、指示の受け方、準備できる時間、周囲とのやり取りなどにも目を向けてください。「この仕事が苦手」と感じていても、特定の進め方や環境で難しさが生じている可能性があります。
私が当時整理した得意・苦手
私は、当時の仕事を振り返って、次のように整理しました。
得意なこととして挙げたのは、人事やリサーチ業務で経験してきた情報収集・数字の分析、調査報告書や社内向けの文章の作成です。プレゼンテーションや研修で人前に立って話すことも、比較的良い評価を得ていました。
一方、負担が大きかったのは、自分から人に話しかけることや、他部署・他社との交渉や調整です。話しかけるタイミングをつかめなかったり、相手の意見に流されて、話をまとめるのが難しかったりしました。
ここで気づいたのは、私の「コミュニケーションが苦手」という説明だけでは、実態を十分に表せないということです。
交渉や調整には難しさを感じていましたが、事前に準備できるプレゼンテーションや研修では評価されていました。私自身は、準備する時間があり、話の流れを自分で組み立てられることが、取り組みやすさの違いにつながっていたのではないかと考えました。
このように整理すると、「人と話す仕事は全部苦手」とまとめるよりも、得意を活かせる場面と、負担が大きくなる場面を説明できます。
ただし、これは当時の私の経験と解釈です。自分の経験を整理するときも、実際に起きたことと、その理由についての考えを分けて書いておくと、後から見直しやすくなります。
3.困る場面から、自分の対処と会社に相談したい配慮を考える
次に、負担の大きかった場面について、次の三つを整理します。
- どんな場面で、何に困るのか
- 自分で行っている、または試してみたい対処
- 会社に相談したい配慮
対処法がまだ見つかっていない場合は、困っている場面から書き始めて構いません。また、すでに実践している方法と、これから試したい方法は分けておきましょう。
配慮が思いつかないときは、「もう一人の自分」を想像する
面接対策の面談で、私が特に参考になったのは、「もう一人の自分が職場にいたら、どんな配慮をしてあげたいか」と考える方法でした。
自分が配慮を求める立場になると、「どこまでお願いしてよいのだろう」「どう伝えればよいのだろう」と迷っていました。
そこで、自分と同じ場面で困っている同僚を想像し、その人が仕事を進めるために何があればよいかを考えると、言葉にしやすくなりました。
例えば、「あのとき、どんな指示の出し方なら理解しやすかったか」「どんな相談の機会があれば助かったか」と振り返ります。配慮を考える際の一つの方法として、試してみてください。
私がセミナーのワークで作った例
2019年に参加したセミナーでは、仕事で困る場面、自分の対処、会社にお願いしたいことを整理するワークがありました。
私は、業務指示を受けた後に確認漏れに気づいても、相談に行くタイミングをつかめないことを取り上げました。当時、ワークで作った内容を整理すると、次のようになります。
| 整理する項目 | 当時の私の例 |
|---|---|
| 困る場面 | 業務指示を受けた後、確認漏れに気づいても、相談に行くタイミングをつかめない |
| 説明しにくいこと | 何に困っているのかを、その場で口頭でまとめて伝えること |
| 自分の対処として考えたこと | 相談の要点と、相談する時間をいただきたい旨を、あらかじめメールで伝える |
| 会社に相談したい配慮 | 指示を受けた後に一人で内容を整理する時間を取り、その後で業務の進め方を確認する機会を設けてもらう |
これは、当時のワークで考えた対処・配慮の案です。
「相談が苦手」という一言から、困る場面と相談の方法まで整理したことで、会社と何を話し合いたいのかが具体的になりました。
合理的配慮は、過重な負担に当たる場合を除いて事業主に求められる義務です。具体的な方法は、本人の状況や職場の事情を踏まえ、本人と企業が話し合って検討します。希望する方法を整理するとともに、どの困りごとを改善したいのかも伝えることが大切です。厚生労働省「合理的配慮指針」
4.面接では、具体的な場面と対応方法を伝える
整理した内容は、面接で説明できる長さにまとめます。
障害名や「苦手なこと」に加えて、仕事で起こること、自分の対処、相談したい配慮を伝えると、企業も実際の働き方を検討できます。
前述の私のワークの内容を、面接で相談する言葉にまとめるなら、例えば次のようになります。
業務指示を受けた後、内容を整理してから確認したい点に気づくことがあります。また、その場で相談内容を口頭でまとめたり、声をかけるタイミングをつかんだりすることが苦手です。
相談の要点を事前にメールでお伝えする方法を考えています。指示の後に内容を整理する時間を取り、その後で確認できる機会を設けていただけるか、ご相談したいです。
これは、ワークで考えた案をもとにした説明例です。すでに実践している対処であれば、実際に使っている方法と、その結果も伝えられます。これから試す方法であれば、そのように説明します。
得意なことも、具体的な経験と一緒に整理しておきましょう。担当した業務、作成した資料、周囲から受けた評価などが、説明の材料になります。
数字は、実際に把握している範囲で使う
通院の頻度や、実際に試している休憩の時間など、把握できていることは数字を添えると具体的になります。目安であれば、目安であることも伝えます。
一方、疲れ方や負担感は、無理に他人と比較した倍率へ置き換える必要はありません。負担が大きくなる場面、その後に必要な休息、仕事や生活への影響などを具体的に説明しましょう。
「まだ十分に試せていない」「状況によって変わる」という点も、分かっている範囲で伝えればよいと思います。
配慮事項をいつ伝えるかについては、障害者雇用の配慮事項はいつ伝える?面接・オファー面談の例文で、重要度や選考段階に応じた考え方を紹介しています。
5.整理した内容を、応募先の確認にも使う
自己理解で整理した内容は、応募先を選ぶときにも使えます。
例えば、私がワークで考えた相談方法であれば、求人企業に「業務上の相談をメールやチャットでも行えるか」「指示を受けた後に確認する機会を持てるか」と聞く材料になります。
求人票の職種名だけでは分からない、実際の仕事の進め方を確認していきましょう。
- 得意な経験やスキルを活かせる業務があるか
- 指示は誰から、どのような方法で受けるか
- 複数の仕事が重なったとき、優先順位を誰に相談できるか
- 困ったときの相談先や相談方法はどうなっているか
- 勤務時間や通勤、給与などが、自分の希望や必要な条件に合うか
必要な配慮と、仕事内容・待遇についての希望を整理しておくと、企業に確認したい点が明確になります。
発達障害のある人の仕事選びについては、発達障害の人に向いている仕事は?ASD・ADHDの特性より重視したい職場環境でも詳しく説明しています。
6.一人で整理しにくいときは、人やツールの助けを借りる
私の場合は、転職エージェントとの面談で質問を受けたり、セミナーで整理した内容を発表したりすることが、自分の得意・苦手や必要な配慮を言葉にする助けになりました。
特例子会社で働いたことや、障害者採用コンサルタントの仕事を通じて、ほかの障害当事者の働き方を知れたことも参考になりました。同じような障害がある人が、どんな仕事をし、どんな工夫や配慮を受けているのか。具体的な実例に触れることで、自分にも試せそうな方法や、仕事の選択肢を考える材料が増えました。
一人では得意・苦手の共通点が見つからない、配慮の案が浮かばないときは、支援者などと一緒に考える方法もあります。「どんな場面で困ったか」「何が助けになったか」をメモして持っていくと、具体的に相談しやすくなります。
整理する項目の参考には、厚生労働省の「就労パスポート」も使えます。働くうえでの特徴やアピールポイント、希望する配慮を支援機関と一緒に整理するためのツールで、様式や記載例が公開されています。
私は、地域障害者職業センターで職業相談・職業評価を受けた経験もあります。相談の流れや実際に受けた内容は、職業評価の体験記事にまとめています。
自己理解は、仕事の経験や環境の変化に合わせて見直していけます。まずは思い出せる出来事を一つ書き出し、そこで何が助けになったか、何が難しかったかを考えるところから始めてみてください。
