「今の仕事とは違う職種に挑戦したいけれど、収入は下げたくない」
「未経験から始めて、将来の年収アップにつながる仕事を選びたい」
障害者雇用で仕事を探すとき、働きやすさとともに、仕事内容や収入の見通しも気になります。
私は聴覚障害と発達障害があり、企業で人事・労務の仕事をしています。過去には障害者採用を担当し、特例子会社では障害理解研修の講師や、ほかの講師の研修を支える仕事も経験しました。
私が仕事選びで大切だと考えるのは、職種名だけでなく、どんな経験を積めて、それがどのように評価される職場なのかを確認することです。
この記事では、人事・経理を中心に、未経験の職種へ移るときの考え方を紹介します。あわせて、障害のある当事者としての経験を活かす仕事と、求人を選ぶ際の確認ポイントも整理します。
未経験から年収アップを目指すときは、二つの時点で考える
まず、「転職した時点で年収を上げたい」のか、「新しい仕事で経験を積み、将来の年収アップを目指したい」のかを分けて考えます。
転職時の年収を上げたいなら、未経験者も応募できる求人の中で、自分に提示される条件が現在より良くなるかを確認する必要があります。求人票の年収上限が高くても、自分がその金額で採用されるとは限りません。
将来の年収アップを重視するなら、入社時の給与に加えて、担当業務を広げる機会や、昇給・昇格の仕組みを見ます。ただし、「最初は安くても、経験を積めば必ず上がる」とは考えず、どのような条件で待遇が変わるのかを確かめておきたいところです。
事務補助やアシスタントから始めること自体が、キャリアアップの妨げになるわけではありません。例えば、入力・照合を担当しながら業務の流れを学び、集計や改善、ほかの工程へ担当を広げる道も考えられます。
一方、経験を積んでも役割や給与区分が変わらない職場なら、同じ仕事を続けるだけでは待遇の改善が難しいこともあります。見るべきなのは「補助」という名称より、入社後に任される仕事と評価の仕組みです。
人事・労務:採用や給与、社員の働く環境を支える仕事
人事・労務には、採用、入退社の手続き、勤怠管理、給与計算、教育研修など、さまざまな仕事があります。厚生労働省の職業情報提供サイト「job tag」でも、採用から退職までの雇用管理に関わる仕事として紹介されています。job tag「人事事務」
未経験者向けの求人を探す際には、次のような業務が候補になります。
- 応募者への連絡や面接の日程調整
- 入退社に関する書類の確認・管理
- 勤怠データの確認や給与計算の補助
- 研修の準備や受講者への案内
ただし、これらの業務でも経験を求める求人はあります。「人事アシスタント」「未経験歓迎」といった名称だけで判断せず、応募条件と担当範囲を確認してください。
仕事を覚えた後に、採用の進め方の改善、給与計算の一連の処理、研修の企画などへ関われるかは、職場や配属によって異なります。自分が学びたい領域と、任される可能性のある仕事がつながっているかを見ます。
人事は「人と話す仕事」だけではない
採用では応募者や現場との連絡・調整があり、給与や労務では正確な処理と期限の管理が必要になります。個人情報を扱うため、情報の取り扱いにも注意が必要です。
「人と話すのが好きだから人事」「数字が得意だから給与」と大まかに決めるより、実際の業務でどのようなやり取りや確認が必要なのかを確かめる方が、自分との相性を考えやすくなります。
電話や口頭でのやり取りが負担になる場合は、メール・チャットの利用、役割分担、指示の確認方法なども合わせて相談します。
私が人事の仕事で感じてきた、やりがいと難しさ
私は障害者採用を担当した経験があり、採用した方が職場で活躍する姿を見ることに、やりがいを感じてきました。
一方で、人事の仕事を通じて感じてきたのは、成果が見えにくい場面もあるということです。給与や手続きを期限どおり正確に進めても、それが当たり前と受け止められ、仕事への評価を実感しにくいことがあります。
ルールを公平に運用しようとしても、個別の希望に応えられず、不満が出ることもあります。社員の希望と、会社の制度・運用をどう調整するかという難しさがあります。
これは私が経験した職場での感覚です。人事なら必ず感謝されない、どんな負担にも耐えなければならない、という意味ではありません。
応募する際には、担当者にどこまで判断が任されるのか、難しい相談を誰につなぐのか、成果をどう評価するのかも確認しておくと、入社後の働き方を想像しやすくなります。
経理:日々の処理から、会計の知識と実務を積む仕事
経理には、伝票や請求書の確認、会計ソフトへの入力、入出金の確認、月次・年次決算に関わる処理などがあります。会社によって担当範囲は異なり、経理と財務を別の部署で担う場合もあります。job tag「経理事務」
未経験から探すなら、入力・照合や経費精算などの業務を確認し、その先にどの工程を学べるかも聞いてみてください。簿記の知識に加え、会計ソフトや表計算ソフトの操作、処理の正確さも仕事に関わります。
job tagでは、経理への入職に特定の資格が必須とはしていませんが、中途採用では決算や財務などの経験が求められる傾向も説明しています。「経理なら実務経験は不要」と一括りにはできません。
私自身の過去の転職活動では、経理の実務経験がない状態でも、経理部門への打診を受けたことがあります。当時、学生時代に取得した「日商簿記3級」を持っていました。ただ、資格が打診の理由だったかは分かりませんし、打診を受けたことは、採用や年収アップの実績とは別です。
経理に関心があるなら、まず希望する求人でどの程度の簿記知識・資格・実務経験を求めているかを確認すると、学習の目標を決めやすくなります。
また、月末や決算期の忙しさ、締め切り、確認を依頼できる相手も重要です。入社後に学ぶ時間を確保できるか、必要な配慮のもとで業務を続けられるかまで見ておきたいところです。
当事者としての経験を、仕事の一部に活かす選択肢もある
仕事内容を考えるときには、これまでの実務経験に加えて、障害がある中で働いたり生活したりしてきた経験も振り返ってみてください。
自分が困った場面や、役立った対応を具体的に伝えることが、採用、研修、商品・サービスの改善に関わる仕事で役立つ可能性があります。ただし、当事者経験だけで仕事に必要な知識や技術をすべて補えるわけではありません。
障害者採用や、働く環境の整備
私が障害者採用の仕事を選んだ理由の一つは、「障害のある人がもっと活躍できることに貢献したい」と考えたからです。
自分が応募者として迷ったこと、働く中で困ったことを、採用や職場づくりを考える材料にできます。ただし、自分と同じ障害名でも、困りごとや必要な配慮は人によって違います。自分の経験を手掛かりにしながら、相手の状況を聞くことが大切だと考えています。
障害理解研修の講師や研修支援
私は特例子会社で働いていたころ、障害理解研修の講師を務め、さまざまな障害のあるメンバーが行う研修もサポートしました。
この経験から、仕事の中で当事者としての視点を活かす方法は、採用だけではないと感じています。自分の困りごとや、どのような対応が役立つかを伝える仕事も、一つの選択肢です。
求人を探す場合は、講師の募集に限らず、研修の企画・運営など、どの役割を担う仕事なのかを確認します。説明や資料作成、受講者とのやり取りに必要な準備も考えておきたいところです。
商品・サービスの使いやすさを確かめる仕事
当事者の経験を活かす取り組みには、商品・サービスを実際に使い、困った点や改善してほしい点を伝える調査もあります。例えば、ミライロは障害のある人の視点や経験をアンケート・インタビューなどで企業に届けるサービスを提供しています。ミライロ・リサーチ
こうした調査への参加と、継続的な雇用として担当する仕事は区別して考える必要があります。求人や募集を見るときは、雇用契約のある仕事なのか、単発の調査参加なのか、報酬と継続性まで確認してください。
また、Webサイトの使いやすさについて当事者として意見を伝えることと、技術的な基準に沿ったアクセシビリティ評価は別の役割です。W3Cも、利用者による評価と基準への適合評価を組み合わせる必要があると説明しています。W3C「利用者を交えたWebアクセシビリティ評価」
これらは仕事内容や、やりがいを考えるための選択肢です。年収が上がる仕事として一律におすすめするものではありません。
「職種は未経験」でも、これまでの仕事を具体的に伝える
未経験の職種へ応募するときも、これまでの経験との接点を探します。
例えば、接客で相手の希望を聞いて説明した経験、事務でデータを照合した経験、ほかの部署と日程を調整した経験などは、新しい仕事について話す材料になります。
職務経歴書や面接では、次の三つを整理してみてください。
- これまで、どのような業務を担当してきたか
- その経験のどの部分が、応募先の仕事に関係するか
- これから学ぶ必要があることは何か
応募先の職種を経験していないことと、仕事に使える経験が何もないことは同じではありません。一方、関連する経験があっても、専門業務をすぐに一人で担当できるとは限らないため、担当できることと学びたいことを分けて伝えます。
年収とキャリアを考えるために、求人で確認したいこと
未経験の仕事を選ぶときは、仕事内容に加えて、次の点を確かめておくと比較しやすくなります。
| 確認すること | 具体的に聞きたい内容 |
|---|---|
| 入社直後の業務 | 最初に担当する仕事、担当範囲、独り立ちまでの進め方 |
| 育成・相談体制 | 誰に教わるか、確認や相談をできる時間があるか |
| 将来の役割 | 仕事を覚えた後に担当を広げられるか、どのような実例があるか |
| 評価・給与 | 評価基準、昇給・昇格の仕組み、提示給与と賞与の条件 |
| 継続して働ける条件 | 忙しい時期、残業、通院、指示・連絡方法、必要な配慮 |
面接では、例えば次のように質問できます。
未経験で入社した場合、最初はどの業務を担当し、どのような手順で仕事を覚えていくのでしょうか。
業務を覚えた後に担当範囲を広げることはできますか。実際に役割が変わった方の例があれば、個人を特定しない範囲で教えてください。
この職種では、どのような取り組みや成果が評価され、昇給・昇格につながるのでしょうか。
質問を広げたい場合は、障害者雇用の面接で使える逆質問も参考にしてください。必要な配慮を伝える時期や方法は、面接・オファー面談での配慮事項の伝え方にまとめています。
また、年収を見る際は、毎月の給与、賞与、残業代や手当の内訳を確認します。具体的な求人の比較例は、実際に紹介された年収500万〜600万円を含む求人の記事で紹介しています。これは筆者に紹介された求人の記録で、未経験者にも同じ条件が提示されることを示すものではありません。
求人は、職種名と具体的な業務の両方で探す
企業の採用ページ、ハローワーク、転職サイトなどで、「人事」「経理」に加え、「採用アシスタント」「給与計算補助」「経理補助」といった業務名も使って探してみてください。
配属先を選考中に検討するオープンポジションなら、希望する業務、活かせる経験、必要な配慮を伝え、どの部署・担当範囲を想定しているか確認します。オープンポジションだから経験を問わない、というわけではありません。
転職エージェントを利用する場合も、「未経験で人事を希望しています」だけでなく、これまで担当した仕事と、入社後に学びたい領域を伝えると、具体的な求人について相談しやすくなります。紹介される仕事が希望と合うかは、自分でも確かめてください。
サービスの違いや利用時の注意点は、障害者向け転職エージェントの比較記事にまとめています。
未経験の仕事へ移るときは、今の経験を振り返り、候補の求人で任される仕事と照らし合わせるところから始めてみてください。収入の希望とともに、必要な配慮、学べる環境、役割を広げる機会まで確認することで、自分が続けられる仕事を考えやすくなります。
